Blood†Tear
マットの手の中で、ドクリ、ドクリと規則正しく動くそれは、紛れもなく人の心臓そのものだった。
「っ……ぅぅっ……くっ…」
傷口は塞ぎかけてはいるものの、苦しそうに息をするアンバー。
彼の手の中の心臓へと手を伸ばすが、それを掴む前に彼はそれを握り潰す。
「っ……!」
グシャリと黒血を飛ばしながら潰されたそれは機能を失い動かない。
その瞬間、翡翠の瞳は見開かれ、伸ばされた手はダラリと落ちる。
背を木の幹で擦りながら座り込むと、ビクビクと何度か痙攣した後、遂には動かなくなってしまった。
「へぇー、こうすれば綺麗なままで残るんだ。ま、こっちの手が汚れるけどね。ハハッ、ハハハハッ」
汚れた手を白衣で拭うが、既に白衣も汚れている為意味をなさない。
今までホムンクルスの処分は、形の残らなくなるまで焼き尽くして行っていた。
しかし、今回は心臓を体外へと取り出し、使い物にならないよう握り潰した。
大概の怪我は回復できるのだが、心臓までは自己回復できないホムンクルス。
その為、見た目は何ら変わりないだが、心臓を失った彼女は機能を失い、生命活動を停止した。
悲鳴に次いで、高らかに響く笑い声。
レグルはチラリと後方へと視線を映す。
「…アンバー……?」
目を見開いたまま力無く座り込み、身動き1つとらない彼女の姿に胸騒ぎがする。
彼女の元へ駆け寄ろうにも、アリューは彼を見逃す訳もなく、それも叶わない。
後退していた彼は突然立ち止まり、銃も構えずにアリューを迎え撃つ。
地を蹴ったアリューは刃を引き、彼の心臓目掛けて突き出した。
「くっ……」
その刃は肉を裂き、赤い鮮血が地に舞った。
確かに刃は彼の身体を貫くが、そこは心臓ではなく少しずれた所。
アリューは刃を引き抜こうとするが、レグルは刃を掴みそれを拒む。
そして、苦しそうに唇を噛みながら彼女の額に銃を突き付け引き金を引いた。
一発の銃声が鳴り響き、レグルの身体から刃が引き抜かれる。
地に倒れ、額を撃ち抜かれながらも立ち上がろうとするアリューの両脚を撃ち抜き、レグルは痛みに耐えながら地を蹴った。