Blood†Tear
――俺はアリア・ダージェスを、お前の恋人を殺していない――
頭の中で、何度もその言葉が繰り返される。
波の音も、風の音も、機械音も、笑い声も、どんなに大きな騒音すらも耳に入らない。
聞こえるのは、頭の中で鳴り響くその言葉のみ。
アリアを殺していない…?
だったら彼女は生きていると言うのか?
今も何処かで生きていると?
否、それは有り得ない。
存在すらも抹消された彼女が生きているなんて、そんな筈がない。
「…嘘だ……嘘を…嘘を吐くな……お前が、お前がアリアを殺したんだーー!!」
あの日見たのは、アリアの胸を貫いたのは、黒いローブを身に纏う目の前のこの男。
そう、男…
おとこ…?
何故そう言える?
何故男だと断定できる?
あの時見たのは後ろ姿のみ。
顔すらも見ていない。
ローブに身を包みフードを深く被っていた為、実際の所男か女かも判別しずらい。
間違っている…?
間違っているのか…?
アリアを殺したのは彼ではないと…?
彼は無実だと…?
だったら誰が…?
誰がアリアを…
アリアを殺した…?
「クククッ……フフッ…フハハハハハ…アーハッハッハッ……」
聞こえてきた場違いな笑い声に振り返ると、腹を抱えて笑うライアの姿が目に入る。
「あーごめん、もう、面白くってさ。ククッ……」
何が面白い…
何が可笑しい…
コウガは苛立ちを覚えライアを睨む。
すると彼は笑いを止め、防波堤の上を歩きながら口を開く。
「本当だよ、彼の言っている事は」
更に否定され、何が真実で何が嘘なのか分からなくなる。
混乱するコウガの様子に笑みを浮かべながら、ライアは更に言葉を続けた。
「彼の言っている事は真実。彼は嘘を吐いてはいない。だって、彼女を殺したのは、あの女を殺したのは、僕だから」
一瞬耳を疑った。
しかし、今耳にした言葉は嘘ではないと、壊れたように笑う彼がそう言っていた。