Blood†Tear
「彼はさ、僕が一番信頼を置く人物なんだ。だからさ、他の奴等はどうなっても構わないんだけど、彼だけはそう簡単に失う訳にはいかない」
何処か悲しそうに言う彼の表情は見えないが、きっと寂しそうな瞳をしているのだろう。
そんな彼の元に歩み寄って来たスティングを確認するとレイピアを手放す。
その隙に剣を引き抜き斬りつけるが、既に其処から2人の姿は消えていた。
「…何故殺さない!?」
防波堤の上に立つライアに問いかけるコウガ。
刃を突き出せば殺せた筈なのに、彼はそれをしなかった。
「何故、か……君はまだ、死ぬ時ではないから、かな……」
林檎を投げながら曖昧な答えを返すと隣のスティングに治癒を施す。
「でも多分、君の仲間は死んでるだろうね。クククッ……」
意味深な言葉を吐くと、不気味な笑い方をし背を向ける。
「待て!お前は何者だ!?顔を見せろ!」
コウガの仇であるライアの素顔だけでも目にしようと引き止める。
そんな問いに答える筈もない。
諦め半分だったのだが、ライアは足を止めると振り返る。
「…いいよ……」
正直驚いた。
そんな言葉が返ってくるとは思いもしなかったから。
「君にだけ見せてあげる。僕の素顔を」
潮風に靡くフードの裾を掴むライア。
その姿にゴクリと息を呑む。
しかし、彼はフードを脱ぎ顔を見せる事は無く、裾を引っ張り更に目深にフードを被った。
「但し、此処では見せない。明日の早朝、君が何か大切なものを失った場所においでよ。其処で僕はこのフードを脱ぐ。それで良い?」
彼の素顔を見る為には仕方のない事だと、コウガは頷き同意する。
「それじゃあ明日、陽の昇る頃に……
……きっと、君の会いたい人に会える筈だよ、コウガ・シェイング……」
その言葉を残し、2人は其処から姿を消した。
真っ赤な林檎が地を転がり、コウガの足下で動きを止める。
それを拾おうと手を伸ばすが、指先が触れる直前でその林檎は無惨にも潰れ形を失った。