Blood†Tear

轟き音と共に地が揺れ、小鳥達が羽ばたいた。


振り下ろされた拳はレオンには当たらず、顔のすぐ横の地面にめり込む。




 「…お前の想像通り、私は奴隷……金で売り買いされ、人に飼われ人に生かされる、生きる価値もない、存在価値のない愚かな存在……それが私だ……」


深い闇を見て来たのだろう。
肩で息をし見下ろす彼女の瞳はとても悲しそうな色をしていた。


その瞳に、彼女の素性に言葉を失い、抵抗するのも忘れ彼女を静かに見つめる。




 「…でも、今の私は違う……ライアに救われてから、私は変わった……もう私は、奴隷じゃない…奴隷なんかじゃ、ないんだ……」


遠い目をして呟く彼女も、彼と同じく戦闘の事を忘れていた。


どこか自分に言い聞かせるようなその言葉。




 「変わった……?救われた……?笑わせるなよ……」


彼は彼女を押し倒し、その上に乗ると鋭い瞳で彼女を見下ろした。

立場の逆転した彼女は、冷たいその瞳に息を呑む。




 「お前のその身体の傷も、お前が得たその力も、全て彼奴等の仕業だろ?彼奴等の指図で、彼奴等の命令でお前は動いているんだろ?
そんなお前は、利用されてるだけじゃないのか?只良いように使われてるだけじゃないのか?」


彼の言葉に目をそらし、逃げるように顔を背ける。

一方彼は言葉を続けながら拳を握った。




 「彼奴等に利用され続けるお前は、何が変わったって言うんだ……今のお前は、彼奴等に出会う前の、奴隷だった頃のお前と、何も変わりやしないんじゃないのか……?」


 「…わかってるさ……わかってる……彼等に利用されている事位…それ位、わかってる……」


遠くを見つめる彼女は小さく呟いた。


何かに耐えるように目を閉じると言葉を続ける。




 「…でも…それでもこうするしか……彼等に従うしかなかった……お前の言うように、結局私は奴隷のまま、何も変わっていないんだ……」


ふっと吹いた風が木々を揺らし、木の葉が舞い降りる。


地に落ちたそれを、彼女は悲しそうに見つめていた。






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