Blood†Tear
目の前に現れたのは、長い黒髪を高く1つに結い、鈴のついた簪を飾る巫女装束の1人の女性。
少し垂れた優しそうな目に泣き黒子、腰には呪符の巻かれた二口(フタフリ)の刀を刺し、それとは別にもう一口の刀を手に持つ。
「…貴女、何者です……?」
突然姿を現した彼女を警戒しつつ問いかける。
「始めまして。私は妖刀鈴狂(リンク)の護り巫女、カンナギ・ミコトと申します。以後、お見知り置きを」
名を名乗り終えると共に、少し抜いていた刀身を鞘に仕舞う彼女。
その瞬間、頬を走る鋭い痛み。
頬に手を伸ばせば切り傷があり、血が滲んでいた。
「…妖刀……護り巫女……」
幾つもの疑問を抱くジーク。
妖刀と言うのは、彼女が腰に刺すあの二口の刀の事だろう。
呪符に封じられているようだが、夥しい妖気を身に纏っている。
その二口の刀の護り巫女であると言う彼女。
多分、彼女の言う事は本当なのだろうが、その前に、あの2人の少女は何処に行った?
意気揚々と現れ先程まで薙刀を振るっていた彼女達。
今まで其処に居た筈なのに、突然姿を消し、入れ替わりのように現れたこの女性。
ジークの反応にカンナギと名乗った彼女は小さく笑うと口を開く。
「あの2人なら、此処に居ますよ」
そう言い妖刀を撫でる彼女。
柄頭に飾られる鈴がリンと鳴る。
「これが2人の本来の姿。先程まで貴方が戦っていたのは、人型をした妖刀鈴狂なのです」
その形も長さも、全てが同一な二口の刀。
その刀と戦っていたなど信じがたい事実だが、他にも現実離れした事が起こっている以上、疑う理由などないだろう。
「私が2人に肉体を貸し、実体化を可能としているんです。お陰で私がこうして肉体を取り戻すのは久々の事。2人は中々私に肉体を返してくれませんから」
身体を捻り伸びをする。
ゆっくり首を回すと、刀を構えたジークを深緑のその瞳に映す。
「問い質したい事が多々ありますが、今はそれ所ではないんです」
「ではお望み通り、速攻で終わらせましょう」
ジークは刀の柄を握り直し、カンナギは手にしていた刀を鞘から抜き取った。