Blood†Tear
「貴女は既に、その妖刀に魅せられているのではないですか?」
「魅せられている……?」
彼女は既に妖刀に狂わされているように、彼の瞳にはそう映る。
妖刀から溢れ出る夥しい量の妖気は、彼女の身体を包み込み呑み込んでいる。
本来、本殿などの社で封じられる筈のその刀。
それをあろう事か持ち出して、その身に放さず付けているのだ。
妖刀に狂わされるのは仕方ない。
しかしこうなる事位、巫女である彼女自身もわかっている事の筈。
なのに何故、彼女は妖刀を持ち歩く?
「…そうですね……確かに、私は既に狂わされているのでしょう……」
憂いを帯びた表情を一瞬見せた彼女は、再びジークとの距離を縮め刀を振り下ろした。
彼は地を蹴りそれを交わしたが、次いで繰り出された攻撃を受け止め2人は鍔迫り合いをする。
「それが、護り巫女である貴女の成すべき事なのですか?」
「護り巫女……そんなもの、只の名だけにすぎない……実際は、不要なものを厄介払いする為に作られた地位……
邪魔者を排除したいのに排除できない…だから、護り巫女と言う名で社に閉じ込め、その存在を無いものとしたんです……」
柄を握り締め、交えた刀を押す力は知らぬ内に増していた。
押され気味の彼は何とか耐え押し返す。
「私は、本家の血を純粋に引き生を受けました。しかし、私の出生は望まれないもの、不要な存在だったんです」
彼を突き飛ばし刀を振り上げる。
しかし身をそらし交わされ、揺れた藍色の髪のみが刃に触れハラリと舞った。
「誰からも受け入れられず、誰からも愛されない。私の出生など無かった事にしたいのに、それが出来ないのがこの世の道理。だから当主は私を小さな社に閉じ込めた。妖刀の護り巫女とし、一生誰の目にも止まらぬように」
刀を振るいながら言葉を続ける彼女。
何度も襲い来る刃を弾き身を捻りながら交わす彼は、反撃の時を伺っているのか、攻撃を仕掛ける素振りも見せなかった。