Blood†Tear
刃が風を切りながら、握られた刀を素早く振り上げ間髪入れずに振り下ろされる。
「窓もない古びた小さな社に1人。隙間から差し込む日差しのみが時を知らせ、吹き込む風が季節を教える。子供達の笑い声が、大人達の話し声が聞こえても、私はたった1人、誰とも笑い合う事も、他愛ない会話をする事もなく、まるでこの世に存在しない者のように、静かに暮らしてきた」
何度刀を振るい続けたのかわからない。
それ程の回数彼に斬りかかったが、どの攻撃も交わされ防がれる。
それでも尚、彼女は刀を振るい続ける。
「2人は、妖刀鈴狂は、そんな私を必要としてくれた。私に生きる理由を与えてくれた。2人だけが、彼女達だけが、私の存在を、私の出生を認めてくれた。2人は私の生き甲斐であり私の生きる理由。私の全て。
だから私は2人の願いに耳を貸し、自由になりたいと言う望みを叶える為に力を貸す」
「…だったら貴女は、その2人に自害しろと、自由になる為に命を絶てと言われたのなら、それに従うと言うのですか……?」
続けられる言葉を何も言わず聞いていた彼は、遂に口を開き問いかけた。
「…2人がそう望むのなら、私は喜んでこの命を絶ちますよ……」
何の躊躇いもなく口にしたその言葉。
自らの命を軽く見て、誰かの為に命を絶とうとする彼女の姿は、まるで過去の自分を見ているようで、彼は柄を力強く握り締めると、振り下ろされた刃を思い切り弾き上げた。
「間違っていますよ…貴女は……」
刀を弾かれ空いた胴。
その胴を狙い彼は刀を横に引く。
「くっ……」
咄嗟に回避に回った彼女は地を蹴り身を退いた。
刃が掠り服は裂け、二口の妖刀が転げ落ちる。
「確かに、貴女は辛い運命を辿ってきたのでしょう。ですが、貴女のその考えは、貴女が今しようとしている事は、決して正しい事ではありませんよ」
一度刀を軽く振ると切っ先を彼女へと向け鋭く睨む。
地を蹴り無駄の無い動きで刀を振り下ろすが、彼女はそれを交わし彼の後ろに回り込んだ。