Blood†Tear
町の隅に佇む何ら変わりのない小さな一軒家。
その家の中からバイオリンの音色が微かに漏れる。
とても上手な演奏なのに、その音色はどこか悲しくて、痛々しいく棘を持つ。
「ん……」
その音色を耳にしたシェイラは失っていた意識を取り戻し、自分の置かれている現状を把握する。
椅子に腰掛ける自分は先程まで居た場所とは異なる場所に居る事は判断できた。
しかし、何故気を失い、何故此処に居るのかは理解できない。
「お目覚めになられましたか?」
バイオリンの音が鳴り止み、変わりに聞こえてきたのは聞き覚えのある女性の声。
顔を上げれば、机を隔てた向こう側に1人の女性が立っていた。
柔らかくウェーブのかかった金髪にミニハットを飾り、オレンジの瞳で見つめてくる彼女は知り合ったばかりの女性である。
互いに話が合い、気を失う直前まで語り合っていた彼女が今、何か不振な笑顔を向けてこちらを見つめる。
「っ……」
「あまり動かない方が身のためですよ?」
頭痛のする頭に手を伸ばすが、彼女は何故かそれを制した。
言われるままに手を下ろし首を傾げると、ポタリと落ちた一滴の雫。
見下ろせば、雫の落ちた服は液体を吸収し赤く染まっていた。
目の下辺りに走る、鋭いものに切られてできた小さな傷跡。
そこから流れた赤い血が頬を涙のように伝っていた。
「言った筈ですよ?動かない方がよろしいと」
クスリと笑う彼女は空になったティーカップに紅茶を注ぐ。
「貴方の周りには、目に見えない程細い弦が張り巡らされています。それは鋭い刃を持ち、触れただけで傷を負う程のもの。その首をはねる事など、容易い事なのです」
ティースプーンを見えない弦に添え、振動させる彼女は悪戯に笑ってみせる。
不快な音を立て揺れる弦はシェイラの腕に、頬に、太股に触れ傷を負わせた。
「今、貴方の喉元には数本の弦が添えられています。この弦を引けば、貴方はその命を落とす事になる。どうなさいますか?今すぐ命を落とします?それとも、その身をいたぶってじわじわと追い込んで差し上げましょうか?」
高らかに笑う彼女を睨むシェイラの首に弦が触れ、一本の赤い線が浮かび上がった。