Blood†Tear
「ハァ……」
木材でできた古い小屋の後ろで重い溜め息を吐くレグル。
彼は一旦マット達の前から姿を眩まし身を潜める。
こちらの戦術が知られている以上、無闇に攻撃を仕掛けるのは得策ではない。
状況が悪すぎる今だからこそ冷静に判断しなければ…
赤く染まる腹部を押さえ、痛みに耐えながら短い時の中で思考を巡らす。
相手の戦術。
相手の行動パターン。
相手のスピード。
相手の反射神経。
全て把握できている。
では、取るべき距離は?
応戦できる戦術は?
何が有利で何が不利となる?
ほんの少しの間違いが命取りとなる今、様々なシュミレーションを慎重に頭の中で繰り広げる。
これ以上銃での戦闘は無理か…?
だが、あの素早い身のこなしの彼女からは距離を取るに限る。
となれば、遠距離からの攻撃が可能な銃が最適となるが、しかし…
「ラグナレア国の王子様~!何~処ですか~!?」
「っ……」
遠くからレグルを捜すマットの声が聞こえてくる。
もう考えている暇も無い。
最適な射撃位置へと向かう為、其処から移動しようと試みるが…
「くっ……!」
ドキリと心臓は跳ね息を呑む咽はゴクリと鳴る。
額に溢れた冷や汗が伝い顎の先から零れ落ち、切り傷を負った耳から熱を感じた。
彼の顔のすぐ真横から突き出された鋭い刃。
後数ミリずれていたらと考えると血の気か引く。
レグルは背をつけていた壁を両手で押し反動をつけながらその場から逃げる。
すると次の瞬間、突き出された刃は小屋の壁を斬り崩した。
バラバラと木片は崩れ落ち砂埃が舞う。
視界が開ける前に引き金を引くが、発たれた銃弾は全て払い落とされてしまう。
「見~っけ」
砂埃が収まり姿を現したマットとアリュー。
刃を振り下ろした状態のアリューの後ろに立つマットは、嫌味に笑って指を差す。