Blood†Tear
「それ反則!剣も使えるとか訊いてないって」
「剣が使えるのは当たり前だろ。むしろ剣の方が得意と言っても良い位だ」
座り込んだアリューの髪を掴み無理やり立ち上がらせ、歩み寄ってくるレグルから逃げるように後退するマット。
彼は懐から注射器を取り出し、アリュー細く血色の悪い腕に針を刺し不気味な液体を流し込んだ。
「知らないお前が悪い。残念だったな」
それを不審に思いながら見つめるレグルは手に握る剣の柄を握り締め、その感覚を確かめると切っ先をマットに向け青い瞳を鋭く細めた。
「お前は一体何をするつもりだ?」
「何って何の事かな?」
向けられた刃に息を呑み冷や汗を流しながらも平然を装い問い返す。
一歩後退した瞬間眼鏡がずり落ちたが気にしない。
「お前は人工生命体を創り出す事に成功している。この世を滅ぼし、人の居なくなった世界でそれを人間の代わりとし、神にでもなるつもりか?」
「神ね……フフッ面白い事言うね、君」
レグルの言葉に笑みを浮かべたマット。
足を止めた彼を見つめるレグルは目を細める。
「確かに、人工生命体をも簡単に創り出せる僕は神になるべき存在なのかもしれない。でも、そんな面倒くさい事には興味ないな。僕は只、研究さえ出来ればそれでいい。
ライアはこの世を滅ぼすとか言ってるけど、勝手にどうぞって感じなんだよね。大体、僕は化学者なんだから、戦闘に巻き込むなっての」
クイッと眼鏡を押し上げた彼は何かブツブツと独りで文句を言い出した。
「お前の研究はライアからの指示ではないと?計画の一端ではないのか?」
「これは只の趣味だよ。だって楽しいじゃん。何かを創り出しそれを自ら壊す。これ以上の快感はこの世に存在しないよ」
狂ってる。
彼はおかしい
一本…否、何本ものネジが外れている。
彼の考えが理解できない。
否、理解したくもないと言う方が正しいのか。
創り出したものを壊す。
その言葉にある記憶が蘇る。
それはまだ新しい記憶。
まだ鮮明に思い出せる記憶。
零れた雨水が湖に波紋を広げた、あの日の記憶。