Blood†Tear
「くっ……」
振り下ろされたメスはアリューにではなく、割って入ってきたレグルに突き刺さる。
彼はアリューを胸に抱き、彼女を庇うと自らの身に刃を受けたのだ。
「うっ…つっ……」
レグルはマットの腹を蹴り突き飛ばすと、肩に突き刺さるメスを引き抜き投げ捨てた。
庇われたアリューはレグルを不思議そうに見上げ、溢れ出る血に首を傾げる。
「…アリュー…貴様……誰のお陰で此処に居られると思ってる……誰のお陰で存在していると思ってる……あ"!?…人形の分際で、この僕に逆らうつもりか……!?」
傷口を押さえるマットは額に汗を浮かべながら声を荒げる。
マットに従順に従い続けてきた彼女。
そんな彼女が主に刃を向け傷つけた。
何故そんな事をしたのか、彼女自身もわかっていない。
でもきっと、彼女は許せなかったのだ。
自分をがらくただと言う彼が。
道具としてしか見ない彼が。
愛情を向けてくれない彼が、許せなかったのだ。
だから彼女は彼に反抗し刃を向けた。
自分は道具ではないと、人ではなくても愛情を注いで欲しいと言う、そんな思いが彼女を突き動かしたのだ。
「…主に従わないお前など必要ない……廃棄だ…消えろ……この、不良品が!」
胸の中に居るアリューが、ぴくりと身を震わすのがわかる。
レグルは彼女に回した腕に力を込め、強く抱きしめると銃口をマットへと向けた。
その引き金を迷いもなく引くが、銃弾は彼の肩を掠っただけ。
狙いを定めた所に銃弾は当たらず眉を潜め見下ろせば、銃に手を伸ばし軌道をそらすアリューと目が合った。
一瞬、これも策略の内なのではと疑いを抱く。
隙を見せ敵に近づき不意を打つ。
その為の演技だったのではないかと。
しかし、そうでないとすぐに気づく。
向けられていたは、とても純粋で真っ直ぐな瞳だったからだ。
「カハッ……ハァ…ハァ……アリュー……」
ふらつくマットは多量の血を吐き苦しそうに息をする。
多分、朦朧とする意識の中幻覚でも見ているのだろう。
アリューに怒りを抱いていた筈なのに、彼はそれすらも忘れた様子で彼女に助けを求め名を呼んだ。