Blood†Tear
怯えたように眉を潜め、落ち着き無く辺りを見渡す。
血に塗れた手は彼女を探すように宙を漂い、青白い唇は震えていた。
レグルから離れたアリューはマットの元へと歩み寄り、幼い子供のように変貌した彼を抱き締める。
「…あぁ…アリュー……」
視界が霞み出したマットは彼女の頬に触れ、確かめるように手を沿わす。
アリューは何も言わず、彼の背に腕を回したままそれを受け止める。
フラフラと一歩ずつ後退するマット。
いつの間にかある家屋の中に侵入していた2人。
安心したのか穏やかな表情を浮かべる彼は、アリューに押され背中から倒れ行く。
アリューは静かにマットを見つめ、マットは優しくアリューを撫でる。
そんな2人の傍に飾られていたツーハンデッドソード。
偶然か必然か、それは壁から離れ刃を地に向け落ちてくる。
「ぐっ……!?」
身体に走る激痛に、目を見開き息を呑む。
一瞬何が起きているのかわからなかったが、自分の胸の違和感と広がる血液、アリューの背中から伸びる刃と長い柄を目にして理解する。
この剣が、自分達2人を貫いているのだと。
「…アリュー……」
名を呼ぶマットは彼女の頬に触れ、頭を撫でると髪に触れる。
彼女を見つめ微笑むと、髪に絡めていた指は離れ、力なく床に落ちて行った。
「……」
見下ろすアリューは彼が息をひきとるのを見送ると、彼に寄り添いそっと瞳を閉じる。
閉じられたらその瞳から零れるのは一粒の雫。
感情も何も持たない彼女が自らの意志で行動を起こし涙を流す。
その姿は人と同等で、只の道具ではなく1人の人間そのものだった。
2人の胸を貫くツーハンデッドソード。
多量の血が広がる中で、2人は幸せそうに寄り添い、静かに眠るように瞳を閉じる。
その姿を目にしたレグルは傍にあった帽子を手に取り深く被り、鍔を掴むと顔を隠す。
そしと軽く頭を下げ、瞳を閉じて黙祷を捧げた。
窓から差し込む暖かな陽の光は2人を優しく照らす。
窓辺で羽を休める小鳥達は、彼等に祈りを捧げるように静かに見守っていた。