Blood†Tear
ある食堂の机の上には、空になった大皿が幾つも重ねられ高々と積み上げられていた。
何十人もの料理を1人でたいらげたのはクレア・シンク。
彼女は残り一つとなったチーズスフレにフォークを通す。
従業員達はその食いっぷりに驚愕し、その体の何処に消えていくのかと疑問を抱く。
「……?」
最後の一口を口に運び幸福をかみしめていた彼女は何かに気づき目を細める。
キッチンから聞こえてきた悲鳴と食器の割れる鈍い音。
其方へ顔を向けた客人達は有り得ない光景に目を見開く。
壁に背を預けるシェフの胸には包丁が突き刺さり、白い筈のコックコートは赤く染まっていた。
血塗れたウェイトレスは粉々に割れた食器の上を這い、必死に助けを求め手を伸ばす。
しかし客人達はその手を取る事無く、叫び声を上げながら我先にと逃げて行った。
「残念。誰も助けてくれなかったね」
姿を現したのは、銀髪に赤のメッシュ、血のように赤い瞳を楽しそうに細める男、フリード・ブラッドリィ。
青白い肌を他人の血で染める彼はペティナイフの刃を地に向け、這って逃げようとするウェイトレスの上に落とした。
耳障りな悲鳴を上げ、涙を流しながら助けを請う彼女に今度は牛刀を落とすフリード。
高らかに笑う彼は次に中華包丁を手に取り、それを彼女の首目掛けて投げ捨てた。
「イヤーー!!」
絶望の色に顔を染め、目一杯の叫び声をあげる彼女だが、中華包丁は彼女には当たらず壁に突き刺さる。
中華包丁を防いだのは鎌を手にするクレア。
彼女は鎌を振り上げそれを弾くと、流れるようにフリードに斬りかかった。
「っ……」
しかし、彼女は彼の体に添えた鎌を引けずにいた。
何故ならば、喉元には短剣の刃が添えられ、更に、気絶しているウェイトレスにも宙に浮く短剣が突きつけられていたからだ。
「今日こそ殺してやるよ、赤目の死神」
耳元で囁くフリードは嫌味に笑い、右手を振ると宙に浮く短剣をウェイトレスに突き刺した。