Blood†Tear
掴んだクレアの肩を離れたその手は彼女の近くで浮遊する。
何か迷っているかのように、触れそうで触れない位置をさ迷っていた。
「…貴方には悪い事をした……何度謝っても足りない位、貴方を傷つけた……一生償っても償いきれない程の間違いを犯した……私はもう二度と、貴方を傷つけたりしない…貴方を否定したりしない……貴方をこれ以上、この血に縛り付けたりなんかしない……
だからフリード…貴方は自由に生きて……闘う必要も、逃げる必要も無い……何にも縛られる事無く、この世を、自由に……」
掠れた小さな声で言う彼女を見下ろす為身体を動かすと、重心を崩した彼女は前のめりに倒れ行く。
意識を失っているのか、その瞳は閉じられ両手を突き出す事は無い。
「っと……」
直ぐ傍を通過して行く彼女に腕を伸ばすフリード。
左腕で彼女の身体を受け止め抱きかかえた。
「…クレア……?」
「……」
腕の中の彼女を揺すりそっと名を呼ぶが反応は無い。
顔色も悪く呼吸は浅い。
しかし、命に別状は無いようだ。
「…何謝ってんだ……悪いのは、罪を背負わせた俺の方なのに……なのにお前は……」
彼女を抱く腕に力がこもる。
傷口を圧迫したのか苦しそうに彼女は唸った為、力を緩めるとそっと腕を離す。
「自由に生きろ…か……」
独り呟くフリード。
宿の壁に背を預けるように彼女を座らせ、乱れた銀髪に優しく触れる。
「…お前も、もうこの罪を背負う必要は無い。何も抱える事無く幸せに生きろ、クレア……」
その言葉を残し、彼は其処から立ち去って行く。
一度も振り返る事無く、彼女の幸せを祈りながら独り何処かへ姿を消した。
遠ざかって行く足音を耳にするクレアだが、意識を手放す彼女は彼の姿を目にする事はない。
ピクリと指は何かに反応し動くが、閉じられた瞳は開かれる事はなかった。