Blood†Tear
陽は沈み明るかった空は群青色に染まりだす。
東の山の隙間からは、満月とは程遠い欠けた月が姿を現した。
点々と点る街灯が暗い夜道を照らす中、宿のある一室にはレグル達3人の姿。
クレアをもう1つ借りてある隣の部屋へと運んだ後、3人は自分達の身に何が起きたのか話をする為此処に集まっていたのだ。
「ハァ……」
煙草片手に溜め息を吐くレグル。
窓辺に肘をつき手に顎をのせる彼は考え事をしているのか、夜空に昇り消えて行く煙を1人静かに見つめいた。
ソファーに腰掛けるシェイラは疲れが出たのか何時の間にか眠りにつき、穏やかな寝息をたてる。
紅茶を煎れていたジークはそんな彼女に毛布をかけ、優しく微笑むとそっと肌理の細かな頬を撫でた。
「誰だよ!?一階の食堂壊したや……グハッ……!?」
乱暴に扉を開き部屋に入ってきたレオン。
大声を出した為、彼の顔面に茶葉の入る小さな缶が投げつけられる。
「何しやが……!」
「静かにして頂けませんか。シェイラが起きてしまいます」
歩み寄ってきたジークはレオンの頬を片手で挟むように掴み低い声で言う。
「しゅ、しゅみましぇん……」
鋭く細められた紺色の瞳に睨まれ謝るが、頬を掴まれている為はっきりとした言葉がでない。
自分の口から出たその言葉に恥ずかしくなった彼は逃げるように後退り、音を立てないようにそっと扉を閉め部屋から退避した。
「…ハァ……ん?」
閉じた扉に背を預け重い溜め息を吐く彼は何かに気づき顔を上げる。
向けた視線の先には、丁度隣の部屋から現れたクレアの姿。
何処遠くを見つめる彼女と不意に目が合う。
「また何処か食いに行くのか?」
「…嫌……少し夜風に当たりに行くだけ……」
何時もならレオンの問いに無言でやり過ごすのだが、今回は顔色1つ変える事無く応えを返す。
何処か普段と違う様子に彼女の後ろ姿を見送るレオンは首を傾げるのだった。