Blood†Tear

空に散りばめられた煌めく星々。

その中に浮かぶのは鋭い三日月。


穏やかな夜空を見上げるクレアは暗い夜道を1人歩く。


静かな町中に響く波の音に引きつけられるようにして、彼女は海の見える場所へと足を向けた。




 「……?」


防波堤の近くに辿り着いた彼女は、其処に先客が居る事に気づく。


冷たい夜の潮風に茶色の髪を靡かせるその人物。


その男性を知る彼女は彼の傍まで歩み寄ると、何も言わず防波堤に背を預けるようにして隣に立つ。




 「……」


暫しの間無言の時が過ぎ去る。


何時もなら背後から歩み寄る時点で気づき振り返るのだが、今の彼、コウガは隣に来ても此方に目を向ける事は無い。



防波堤に組んだ腕を乗せ、その腕の中に顔を埋める彼は微かに覗くスカイブルーの瞳を海に向けるのみ。



不思議に思った彼女は首を傾げ、彼がぼんやりと見つめる海へと目を向ける。



夜の暗い海は荒れてはおらず穏やかで、別に変わった様子は見られない。




一向に此方に目を向けない彼にチラリと視線を移した後、ポケットに片手を突っ込んだ彼女は其処から1つ、綺麗な紙に包まれたキャンディを取り出した。


紙の端を掴み、それを彼の目の前に吊り下げてみる。



この行動は傍から見れば滑稽な行動に見えるだろう。


しかし、人との接し方の乏しい彼女。


そんな彼女の最善の対応がこれなのだ。




 「……」


 「…っ……!?」


暫く反応が無く困ったが、顔を埋めていた彼は身を起こし、目の前にぶら下がるキャンディではなく、キャンディを摘んでいた彼女の細いその腕を掴んだ。





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