Blood†Tear
「…駒…か……」
女神を模した像に歩み寄り、涙を流したように黒く汚れたその頬に指を添わすライア。
彼の後ろ姿を見つめるスティングは1人小さく呟いた。
彼、ライアにとって、自分達は只の道具に過ぎないのだろう。
此方がどう思っていようが、そんな事関係ない。
行動を共にする同士だと思っていようが、仲間だと思っていようが、彼にとって自分達は目的を成し遂げる為だけの存在でしかないのだから。
彼にとって仲間など必要無い。
そんなもの、只の妨げでしかないのだから。
人であろうが物であろうがそれが何であれ、自らの目的を成し遂げる為に利用できるものは全て利用する。
そしてそれが不要となれば、利用価値の無いものだとわかれば、彼はすぐさま排除する。
それが彼、ライアの本来の姿。
何時か自分も塵の如く切り捨てられる。
その覚悟はできてはいるが…
「心配しなくて良いよ、スティング」
窓辺に歩を進めたライアはスティングの心情を読み取ったように語りかける。
開けた窓からは冷たい夜風が舞い込んだ。
「君は僕の唯一の理解者。彼等のように使い捨てる気はないから安心しなよ。まぁ、君が僕を裏切るようなら別だけど」
そう言う彼の瞳は見えないが、フードに中のそれはスティングを睨んでいるように思えた。
とても冷たく、とても鋭く。
裏切る事など許さぬように。
「争う事など互いに望んでなどいないし、君は僕に逆らったりする訳がない。利用するだけ利用させてもらうよ、スティング」
クスリと笑うと背を向け、窓の外へと目を向ける。
見上げる空に浮かぶのはその身を細くさせた三日月。
「光が消え行くような姿だね。闇が光を喰らっているようにも見える。とても幻想的な夜だ」
頬杖をつく彼を照らすのは仄かな月明かり。
吹いた夜風は青白く染まった素肌を掠める。
フードから覗く口元は、終始笑みが零れていた。
とても楽しそうに、何かを待ちわびているように。