Blood†Tear
重い扉は軋んだ音を立て開かれる。
長い間閉ざされていた其処に外気が侵入し、所々に降り積もる埃が宙を舞う。
教会の中へと足を踏み入れたコウガは咳き込み、その音が静かなこの教会の中にやけに響く。
奥に設置されたパイプオルガンに女神像。
色鮮やかなステンドグラスに大きな十字架。
何ら変わりのない見慣れたその様式。
変わるのは、壊れた長椅子に汚れた壁や床。
そして、綺麗だった女神像の頬を汚す黒いシミ。
懐かしそうでいて何処か悲しそうなその瞳で教会を見回す彼は、自分とは異なる他人の存在に気づく。
十字架の前、片膝をつき祈りを捧げるその人物。
コウガの視線に気づいたのか、その人物は立ち上がる。
身を起こした瞬間に落ちた何か。
それは床を転がりコウガの足元まで辿り着く。
靴にぶつかり動きを止めたのは金色の綺麗な指輪。
回転しながら倒れたそれを見下ろすコウガは手を伸ばすが、触れる直前に声をかけられそれを拒まれる。
「ずっとこの日を待ってた……会いたかったよ…コウガ……」
聞こえてきたのは、女性特有の高い声。
顔を上げると、前方には藍色の瞳に涙を浮かべ歩み寄って来る女性の姿。
その人物を目にした瞬間、コウガは大きくその目を見開いた。
「…アリ、ア……?」
驚きの表情を顔に浮かべ息を飲む。
距離を縮める女性はそんなコウガを気にする様子もなく、彼の胸の中に飛び込み抱き付いた。