Blood†Tear
腰までの黒髪に藍色の瞳。
胸の中に収まるこの女性の事を、俺は知っている。
忘れる筈もない。
忘れる筈があるものか。
だって彼女は、彼女は俺の、俺の大事な人なのだから。
「…コウガ……」
彼の身にすり寄る彼女の名はアリア・ダージェス。
コウガの知人であり彼の恋人。
久々の再会に涙を流し喜ぶアリアだが、それに対しコウガは動揺しており、彼女の背に腕を回す事は無い。
「コウガ……?」
「…誰だ……君は……君は一体……何者なんだ……?」
胸の中の彼女を押しのけ後退る。
身を離した彼は首を傾げる彼女へと問い掛けた。
「どうしたのコウガ?私だよ。アリアだよ」
「嘘だ…アリアは……アリアは――」
――アリアは死んだ…
此処で…
この場で、彼女は死んだ…
俺の目の前で、君は…
君は、死んだんだ…
その身を貫かれ、多量の血を流しながら燃え盛る炎の中姿を消した。
存在すらも抹消され、この世にないもなとして扱われた彼女が、死んだ筈の彼女が今此処に、俺の目の前に立っている。
何故…?
どうして…?
何が起きている…?
何がどうなっているんだ…?
現状が理解できなくて…
目の前の彼女が信じられなくて…
コウガはその手に剣を握り、震える切っ先を彼女へと向けた…
「…仕方なかったの。あぁするしか術はなかった。自由になる為には、此処から脱け出す為には、死んだ事にしなければならなかったの」
死んだ事にしなければならなかった…?
と言う事は、彼女は生きていると…?
目の前の彼女は本物だと…?
あの死は偽装だったと、そう言うのか…?
「自由な身になる為、私は彼の力を借りた。だから私は彼に力を貸す。この世界を変えると言う彼に」
彼女が差す彼とはライアの事を示すのだろう。
ライアによって殺されたと思っていた彼女。
しかし事実は異なった。
実際彼女は死んではおらず、彼女はライアの仲間であったのだ。
「ねぇコウガ、私と一緒に来て。共にこの世界を変えよう。私には、貴方が必要なの」
動揺する彼に手を差し伸べる彼女。
久々目にした彼女の優しい微笑みに、何もかも忘れてしまった彼は剣を下ろし彼女に手を伸ばした。