Blood†Tear

 「何?そんなに気にくわなかった?僕のこの姿が」


軽やかに飛び跳ね振るわれる剣からその身を守るライア。


腰まである長い黒髪は動く度にフワリと揺れる。




 「でも仕方ないんだよね。だって、これが今の僕の姿なのだから」


 「…なっ……!?」


一瞬彼の言っている言葉の意味が理解出来なかった。


しかし、その言葉の意味を理解した瞬間、剣を振り上げたコウガはそのまま動きを止める。




 「言っただろう?今日此処で、僕は君に素顔を見せると」


丁度後ろにあった木製の古びた椅子に腰掛けるライア。

優雅に脚を組む彼は悪戯に口角を吊り上げる。



確かに、昨日彼はそう言った。
此処でフードを脱ぎその素顔を晒すと。



しかし、自分を騙そうとしていた彼をそう簡単に信じる訳にはいかない。




 「まだ嘘を吐くつもりか……」

低い声で言うコウガは上空で待機する剣の柄を力強く握り締める。


殺意のこもる鋭い瞳に睨まれようと、怯えた様子1つ見せる事の無いライアは緊張感無く短く笑う。




 「嘘なんかじゃないよ。これは事実。真実なんだ」


背もたれの上に両手を乗せ、その上に顎を乗せるライア。

上目遣いにコウガを見上げ、楽しそうに観察する。




 「君を騙そうとしたのは悪いと思ってる。この通り、謝るよ。でも、だからと言って疑わってばかりいなくてもいいじゃないか。僕の言っている事全てが、嘘と言う訳ではないのだから」


意味ありげな内容に目を細めるコウガ。

その表情にライアは嫌味に笑う。




 「例えば、君の恋人アリアが自由になる事を望んでいた事とか、その為に彼女が僕に助けを乞うた事とか。残念だけど、彼女が死を望んでいたのも事じ――」


シュッと風を切る刃。
崩れた床に突き刺さる切っ先。

巻き起こる風に黒髪は揺れ、数本の髪がハラリと舞った。

綺麗な頬には赤い線が浮かび上がり、ツッと伝う鮮血はポタリと床に零れ落ちた。




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