Blood†Tear
頬を拭ったライアは、その手に付着する赤い液体を不思議そうに見つめた後、剣を振り下ろし肩で息をするコウガを鋭く睨む。
「いったいなぁー。何するのさ」
「黙れ…もうお前の虚言など聞きたくない!」
「虚言ね……信じたくないのは分かるけど、そろそろ素直に受け入れたらどうだい?君だって気付いていた筈だよ、彼女の変化に」
怒りを露わに声を荒げるコウガ。
そんな彼を臆することのないライアは、挑発的に指先の血をペロリと舐めとって見せる。
「それとも、気づかなかったとでも?ハハッ…それでも恋人?有り得ないって」
「煩い…!」
馬鹿にするように笑われ、コウガは床に突き刺さる剣を引き抜くとそれを斜めに斬り上げる。
その攻撃を身軽に避けたライアは彼の態度に確信する。
彼は何も知らないのだと。
彼女の変化にも、彼女の心の叫びにも、何も気づいていなかったのだと。
「そうか…そうだよね……だから僕に助けを乞うたのか……頼りにしていた恋人が役に立たないから、それで僕に協力してくれたんだね……」
1人納得するライア。
何が可笑しいのか声をあげ笑い出す。
怪訝な顔でその様子を見つめていると、ライアの右手には何時の間にかレイピアが握られており、素早くその切っ先をコウガの喉元に突き付けた。
「っ……」
「彼女はさ、約束してくれたんだ。自らの願いを叶える変わりに、僕の力になってくれると。交換条件と言う訳さ。物事には何にでも見返りと言うのはつきものだろ?」
首を傾げる彼は乱れた髪に指を通し、顔にかかる横髪を耳にかける。
「僕の身体はこの世界で長く存在し続けるのは困難でさ。だから僕は見返りに、彼女からこの身体を貰う事にしたんだ」
一呼吸間を空けるライア。
コウガの顔に手を伸ばし、ゆっくりて指を這わすと顎に添え、彼はコウガに顔を近づける。
「その言葉の意図する事位、君にも分かるよね?」
間近に迫るのは恋人であるアリアの顔。
その中身は違えども、彼の心臓はドキリと跳ねる。
「この肉体は、君が愛したアリアの身体。それを君は傷つける事ができるのかな?」
赤い唇を舐めるライア。
至近距離でコウガを見つめ、妖艶に微笑んで見せた。