Blood†Tear
「先に言っておくが、戦う意志はない。まぁ、お前達がその気なら別だが」
戦意はないと右手を挙げてみせる彼、スティング。
捲れたローブの中から血の滲む包帯がちらりと見え、其処にある筈の左腕は存在しない事がわかる。
「戦意はないだ?そんな事信じるとでも思ってんのか!?」
身を低くし戦闘態勢をとるレオンはスティングを鋭く睨み威嚇する。
刀を構えるジークはシェイラを護るように前に立ち、隣に立つレグルは手にした銃の引き金に指を添えた。
「俺は只、お前達と話をしたいと思い此処に来ただけだ。無駄な血を流す為に来た訳じゃないんだが」
話の通じぬ彼等に呆れたスティングは溜め息を吐くと古傷の残る右頬をかく。
そんな彼の様子を、未だソファーに座ったままのクレアは溶けて零れたアイスを舐め取りながらも鋭く細めた赤い瞳で睨み付ける。
「話と言うのは一体、どのようなお話でしょう?」
立ち上がり悩むスティングに声をかけるのはシェイラ。
レグルの構える銃を下げ、ジークの肩に手を置き剣を仕舞うよう促した。
「シェイラお前、何言ってやがる!?」
今にもつかみかかりそうな勢いのレオン。
そんな彼をレグルは押さえ何とか制する。
「私には、彼が嘘を吐いているようには見えません。それに彼はコウガさんの居場所を知っています。コウガさんの無事を確認する為にも、彼の話を聞くべきだとは思いませんか、レオンさん?」
「っ……」
臆する事なく言うシェイラのもっともな意見に、言葉を失ったレオンは悔しそうに唇を噛む。
「話が分かる方が居てくれて良かった。助かるよ」
「言っておくが、お前を完全に信じた訳じゃないからな!少しでも変な真似してみろ?その喉掻っ切ってや――」
「あぁ失礼。手が滑ってしまいました」
大声をあげ興奮気味のレオン。
彼の言葉は途中で遮られてしまう。
顔を歪めた彼の瞳に映るのは、ヘラヘラと笑いながら謝るジークの姿。
彼は鞘に納めた刀でレオンの後頭部を殴打していたのだ。
故意か過失か。
それは彼の表情を見れば分かる事だった。