Blood†Tear
丘の上に佇む、小さいながらも立派な教会。
今では其処を使う者は無く、長年の月日を経てすたびれ廃墟へと成り変わっていた。
その崩れた教会の中、コツリコツリとリズミカルに鳴り響く足音。
静かなこの空間にその音を響かせるのはコウガ。
独り歩む彼の手には小さな花束が握られる。
女神像の近くまで辿り着いた彼はその花束を傍に手向け、膝を折ると瞳を閉じた。
暫くそのまま祈りを捧げ続けていた彼はその瞳を開くと立ち上がる。
そして女神像の頬に手を伸ばし、血の涙を流したように残る黒い痕を、その汚れを拭うようにしてそっと触れる。
するとその黒く汚れた血の痕は消え、女神は涙を流す事は無くなった。
「……」
パイプオルガンにステンドグラス。
灯りの消えた蝋燭に埃の積もった大きな十字架。
何かを思い出すように教会の中をゆっくりと見渡していくコウガ。
並ぶ長椅子には参列者の姿が、パイプオルガンの傍には美しい音色を奏でる女性、アリアの姿がその瞳には不思議と映る。
蘇るのは様々な記憶。
懐かしく、幸せの満ち溢れたあの頃の記憶。
『こんの……糞死神が!』
昔の記憶に浸っていると、何処からか聞こえてきた荒々しい怒声。
その声に現実に引き戻されたコウガは溜め息を吐くと出口へと向かい、扉に手を添えた所で足を止める。
そして一度後ろを振り返り、女神像をその瞳に焼き付けた後、彼は其処をあとにした。