Blood†Tear
崖を背にし向かいの人物と対向する少年少女。
少女は少年を庇うように立ちはだかり、護られる少年は心配そうな顔をする。
彼等に対向するのは、白衣に黒縁メガネをかけた如何にも科学者と言う風貌の男性と、薄汚れ粗末なワンピースを身に纏い裸足で立ち尽くす痩せた少女である。
「あっち行けー!」
巨大な箒を手に威嚇するが、その身は小刻みに震えていた。
その震えを隠すように、箒の柄を握る手に力を込める。
「邪魔だなぁ……アリュー」
鬱陶しそうな顔をすると男性は隣の少女に目をやる。
名を呼ばれた少女は伏せていた虚ろな瞳を上げ、すぐさま行動に出た。
目にも止まらぬ速さで2人の前まで移動すると、箒を片手で掴みそれを振り回す。
「う、うわぁっ!」
箒を武器としていた少女は吹き飛ばされ、山肌に身をぶつけてしまう。
咳き込んでいると、アリューと呼ばれた少女の姿が目の前にあった。
アリューは座り込む少女の首を掴み持ち上げる。
「リオン様、貴方が大人しく着いて来てくれさえすれば、手出しする気は無かったのに」
男性は少年を観察するように上から下、全身へと満遍なく目を動かす…
そして眼鏡を指で押し上げながらゆっくりと歩み寄ってきた…
男性が一歩近づくにつれ一歩後退。
だが、後ろは絶壁の崖…
逃げ場はない…
「…僕は、この力を悪用する気は有りません」
「悪用だなんて。彼女はただ、貴方をその力から解放してあげようとしているだけなのに」
男性の言葉に少年は微かに驚いた表情を見せる…
動揺したのか、後退る途中に小石に躓き尻餅をついてしまった…
振り向くと、小石が猛スピードで転げ落ちて行くのが目に入る…
「まぁ僕は、その力を研究できさえすればいんだけどね」
ゴクリと息を呑み、嫌みに笑う男性を睨み付ける…
その時、近くから苦しそうに呻く声が聞こえてきた…