Blood†Tear
何故だろう…
何か嫌な予感がする…
ひた走る彼の心臓は脈を早めていた。
息を切らし走り続ける彼は、不意に浮かんだ嫌な光景を振り払うように頭を振る。
アリア…無事でいてくれ…
そう呟くと、彼は握っていた拳に力を込めた。
丘を登ると、そこには小さな教会。
彼は教会を目にした瞬間、息をするのを忘れていた…
目を見開き、無意識に開いた唇…
力強く握られた拳は力が抜け開かれる…
彼が目にしたのは、黒い煙が立ち上る教会…
窓からは赤い炎が揺れているのが見える…
辺りに咲いていた花々は燃え尽き、その姿は灰となる…
「…ア、リア……アリアー!」
小さく呟き、そして叫ぶと教会の扉を勢い良く開く…
扉を開けた瞬間、彼の頬に何かが飛んできた…
生暖かい、何か…
それが何なのか指で拭う。
拭った指に付いた物を目にした瞬間、彼は目を見開いた…
何故なら、彼の指には赤い液体が…
彼の頬に飛んできたのは、生暖かい真っ赤な血液…
「…ぅ゛……」
前方から聞こえた苦しそうな声に顔を上げると、彼は更に目を見開く…
そして絶望の色に顔を染めながら呟いた…
「…アリ、ア……」
と…
彼の目に映ったのは、血に染まるアリアの姿…
胸には鋭い刃が貫かれ、刃の先からは血が滴り落ちる…
声のした方へ顔を向けた彼女の唇は、朦朧とした瞳で捉えた人物の名を呼んでいた…
コウガ…と…
彼女を貫く剣を持つのは、フードを目深に被った黒いローブの人物…
彼女の胸から剣を引き抜くと、新たに真っ赤な血液が辺りに飛び散った…
その人物は崩れ落ちる彼女の黒髪を掴むと、燃え盛る炎の中に放り投げる…
「アリア!アリアーー!!」
彼女の名を叫び、腕を伸ばす…
だが、動けなかった…
彼女の元へ走り寄れなかった…
伸ばした腕は、彼女の腕を掴む事はなかった…
彼女の体を燃え盛る炎は包み込み、その姿は見えなくなる…
彼は叫び続けた…
涙を浮かべ、何度も、何度も、愛した彼女の名を…
彼の声は虚しく響く…
外では、彼の流す涙のように雨が降り続いていた…