Blood†Tear

 「あぁぁーー!何でこんな事!」


不満げに叫ぶのは眉間に皺を寄せるレオン。
彼は何故かロープを引く。
と言うのも、沼に落ち込んでしまった馬車を引き上げるのが、シェノーラからの頼みだったのである。


 「叫んでないで仕事して下さいよ!」


レオンの声に反発するように馬車の後ろから声がする。
顔が見えなくとも、この声は紛れもなくイースである。


 「何だと!このーー」

 「レオン」


その声にロープを投げ捨てる彼だったが、隣からの声に動きを止めた。
落ち着いた声の主はコウガである。


 「お前は頭にこないのかよ?」

気を静めロープを握り直し問う。すると彼は一度息を吐くと口を開いた。


 「正直、腹立たしい」

 「え!?」


彼の言葉にロープを手放しそうになる。
常に冷静な彼の思いもしない言葉に驚いていた。

一方コウガは彼の反応に首を傾げるのだった。


 「まぁ、人助けだし、仕方ないかなって」

 「……そっか」

優しい瞳で言うと、再びロープを引き始めた。





馬車から離れた場所、テーブルに腰掛けるのはリオン、シェノーラ、ジークの3人。
細身の侍女が1人、ティーカップに紅茶を注ぐ。

リオンは馬車を引き上げる4人を不安そうに見つめ、シェノーラはそんな彼に微笑みながら紅茶を進める。

ジークは長い脚を組みテーブルに肘を付け4人を眺めながらお菓子を口に運ぶ。


 「何だか楽しそうね、ジーク」
紅茶を見つめ言うのはシェノーラ。
その声に視線だけ彼女へと向ける。


 「楽しそうだなんて。只、私は……」

紅茶を一口飲むと再びコウガ達へと視線を戻す。


 「狼の血を引く者に赤目の死神。神の瞳に風使い。そして、彼等を連れる強い力を秘める者……そんな彼等に興味があるだけですよ」

 「興味、ね……確かに、彼等が一緒にいるのは偶然とは思えない。不思議な出会いだと言えるわね」

紅茶をゆっくりと口に運ぶと、目を細め言う彼を見て静かに微笑むシェノーラだった。



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