魅惑のヴァンパイア
「やっ……! でも、仕事は? 大丈夫なの?」


「大体挨拶は済ませた」


ヴラドは私の手を引っ張ると、ズンズン出口に向かって歩き始めた。


周りから、


「もうお帰りになるのですか?」


「まだいてくださいな」


などと言われても、ヴラドは全て無視して歩き続けた。


外に出ると、バドが馬車の前で待っていた。


「お早いお帰りで」


一礼するバドに「急いでくれ」とヴラドは言って馬車に乗り込んだ。


「かしこまりました」


バドは頭を下げたまま承諾すると、素早く馬に乗った。


外は真っ暗だった。


魔界の空気は、冷たく重い。


みるみる遠くなっていく会場を、不思議な気持ちで眺めた。


これが……今私が生きている世界。


私はまだ何も、知らないんだ――
< 119 / 431 >

この作品をシェア

pagetop