魅惑のヴァンパイア
玄関のドアを開けた所で、バドが口を開いた。


「シャオン様には近付かない方が、身の為でございます」


「……なぜだ?」


「もしもシャオン様の身に何かあったら……ヴラド様があなたを生かしておかないでしょう」


ふんっ。一介の執事が分かった風な言い方を。


「僕とヴラドは旧知の仲だ。女一人どうにかしたくらいで壊れるような仲ではない」


バドは腰を屈めながら、なおも言い放つ。


「シャオン様は、ヴラド様にとって特別な方でございます」


「……そうかもしれない。だが――」


今まで何人ものヴラドの女と寝てきた。


だがヴラドはそれについて一度も怒ったことはない。


例え今回は怒ったとしても、まさか殺すなんてことは……。


「ヴラド様が手を下さなくても、わたくしがあなたを殺します」


冷静な瞳。一切の動揺を見せずに、この僕に『殺す』と言った。


「お前……名は何と言う」


「……バド・ツェリスでございます」


力強く、鋭い眼光。


「バド・ツェリスか……覚えておこう」


ピーターはバドに向けて不敵な笑みを見せると、太陽に似た、オレンジ色のマントを靡かせ、魔界の風に消えていった―――
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