魅惑のヴァンパイア
いや、今は私情を考えている場合ではない。


目の前の仕事を片付けなければ。


「――あっ!」


ほんの一瞬目を離した隙に、男はいなくなっていた。


慌てて一緒に来ていた女達に声を掛けた。


「ロード伯爵は?」


「伯爵なら、急用を思い出したと言って帰ったわ」


 しまった、勘付かれたか。


女達の目が潤んだ上目遣いをし、身体をくねらせ誘っているのが分かったが、ヴラドは素早く会場を出た。


 ――まずい、次はいつ会えるか分からない。この機会を逃しては。


 路地裏に消える後ろ姿を見つけた。


慌てて後を追いかける。


ロード伯爵が逃げ込んだと見られる路地裏は、人が一人やっと入れるくらいの狭さで、脇に隣接する建物が灯りを閉ざしていた。


むっとする生ゴミの匂い。それでも奥へ進むと、大きな壁が聳え立った。


 ――ここに入っていったはずだが……逃げられたか。


 壁を苦々しく見つめると、後ろからあざ笑うような声がした。


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