魅惑のヴァンパイア
―――……

今日は大分遅くなってしまった。


夜風が異様に肌寒い。


深い霧が、大きな屋敷を隠すように包み込んでいた。


音を立てずに、いつもの寝室へと足を運ぶ。


手を使わずにドアを開けると、天蓋付きのベッドに真っ先に目をやった。


 こんもりと盛り上がった羽毛布団。


――さすがに寝ているか。


起さないように、ゆっくりとベッドの端に腰を降ろし、愛しい人の寝顔を見つめた。


まだ幼さが残る桜色の頬。


長い睫毛が影を作っていた。


目尻に残る線を描いた涙の跡。


 ――お前はまた泣いていたのか。


そんなに故郷が恋しいか? 


望むものを全て与えてやりたいと思っていても、シャオンが本当に望むものを与えてはやれない。


自分の欲望をぶつけ続け、喜んでほしいのに、泣かせてばかりいる。


大切にすることが、どういうことか分からない。


愛し方など、誰も教えてくれなかった……。


涙の跡を拭うように、そっと指先で頬に触れた。


すると、ピクリと瞼が動き、長い睫毛が上を向いた。
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