魅惑のヴァンパイア
「どうしても行くの?」


「……ああ」


「どうしても?」


「……すまない」


 本当に最後かもしれない。


 ここで意地を張っていたら、一生後悔するかもしれない。


 でも、ヴラドが死んでしまうかもしれないという現実を受け入れたくなかった。


「分かった」


「シャオンっ!」


 ヴラドは一気に声のトーンが明るくなった。


「一つだけ約束してくれる? 約束してくれたら開ける」


「約束?」


「絶対に死なないと約束して。生きて私の元に帰ってくると……」


「…………」


 数秒間の沈黙が、とても長く感じられた。


 まるで一時間、二時間、凍えるような雪山で一人、来るともしれない助けを待っているような、そんな気分だった。
< 254 / 431 >

この作品をシェア

pagetop