魅惑のヴァンパイア
「……分かった。約束する」


 ほっと安堵した。


 約束は……守れないかもしれない。


 そんなことは分かっていた。


 けれど、口約束でもいい。


諦めてほしくなかった。


 私も、諦めたくはなかった。


絶対に戻ってくると信じたかった。


 椅子や机をどかそうと、ギィギィと音を立てて運んでいると、勝手に椅子や机が動き出し、元の場所に戻っていった。


 そして、私が鍵を開けると、ヴラドが悲しそうな顔でドアの前に立っていた。


「シャオン……っ!」


 腕を引き寄せられ、抱きしめられた。


 私の体をすっぽりと包み込む腕と胸の大きさが、さっきまでの怒りを全て解きほぐした。


「ヴラド、痛いよ」


「ああ、すまん」


 緩んだ腕と、潤んだ瞳。


 本当にヴラドは、私を愛してくれているんだ。


 嬉しさと愛おしさと切なさで、胸が苦しくなった。
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