魅惑のヴァンパイア
「ヴラド……」


 つま先立って、精一杯背伸びして、初めて自分からキスをした。


 相変わらずヴラドの唇は冷たかった。


 驚いた表情のヴラドが可愛くて、守ってあげたいと思った。


 一国の王であるヴラド。


絶大な力を持ったヴラドを非力な私が守ることなんて、笑われてしまう考えかもしれないけれど、ヴラドを支えてあげられるのは私しかいない。


そう思った。


 お腹が大きくなっているから、身体を重ねることはしなかった。


その代わり、ヴラドは嬉しそうに私のお腹を撫でてくれた。


父親らしい行動を初めて見せるヴラドが、なんだかくすぐったかった。


もしかしたら、いいお父さんになるのかも、なんて想像をしてしまう。


 穏やかな時間はあっという間に過ぎて、日がどんどん沈んでいくのが、恨めしかった。
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