魅惑のヴァンパイア
「そんな……」


 信じたくなかった現実を突きつけられ、再び涙が溢れ出した。


「あいつは一人で敵を倒し、味方まで救ったのか……」


「いいえ、おかしいと勘付いた敵はいち早く風に乗って逃げました。しかし、風を使える者はわずか。殆どが彼によって灰にされたことでしょう」


「そうか……」


「彼は私達が逃げる時間を与えてくれたのです。
その気になればあの場にいた全員を殺すことも可能だったのに……。
私達は彼に助けられたのです」


 目の前で交わされている会話が、どうしても受け入れられなかった。


 バドが死んだ。


バドが皆を救って死んだ。


 簡略化された言葉だけが頭の中をぐるぐると巡った。


 バドがいなければ……バドが自らを犠牲にしなければ、ここにいる全員が死んでいたかもしれない。


 それは分かる。理解しなくちゃいけない。


 でも……でも……。


不器用に優しく微笑むバドの顔が、脳裏に浮かんで……消えた。
< 314 / 431 >

この作品をシェア

pagetop