魅惑のヴァンパイア
……ヴラド危ないっ!


声は出ず、実体がないので手を出すことも、助けることもできない。


ヴラドは剣で対抗しようとしたが、黒い物体に剣が飲み込まれるだけで、切ることができない。


「くっ」と、ヴラドは苦悶の表情を浮かべ、その黒い物体に飲み込まれ、闇に消えてしまった。


「ヴラド! 嫌―――!」




 私は大声をあげて、起き上がった。


 息が上がり、嫌な汗が全身を伝っていた。


 見慣れた簡素な部屋。


いまだ鳴り止まない動悸を必死に押さえ込んだ。


「夢……?」

 着替えて部屋を出てからも、夢の映像が頭から離れなかった。


嫌な予感がした。


ヴラドが死んでしまうような。


 そんなことない、と頭を振って不吉な夢を振りほどこうとしても、胸の奥に潜む焦燥感は払えなかった。

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