魅惑のヴァンパイア
「闇の世界だった。真っ暗で、何もない世界。時々、見るの。お母さんやお父さんが死んだ時とか、ヴラドが死界へ行く時とか」


 私の言葉に、ラシードは考え込むように顎に手をかけて黙り込んだ。


「私たちは、ラシード様が死界へ行くことすら止めていたのです。
この試作品は、王家のルビーの宝石を真似て作ったもの。
これを飲んで死界に行った所で、死界の長の元へは辿り着けません。
どうか無理なことをおっしゃらず、諦めてください」


 結社が手の平に載せて見せてくれたのは、大きな飴玉くらいの大きさの赤い宝石だった。


「これを飲めば行けるのね」


「シャオン様っ」


 ラシードを除いた皆が、困り顔で必死になって私をなだめていた。


 けれど私は、どうやってこの屈強な男たちから、試作品の宝石を奪い取るかを考えていた。


飲み込んでしまえば、こっちのものだ。
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