魅惑のヴァンパイア
「死界の女神が教えてくれた。
父はどんどん、お前の母に魅かれていった。
けれど、俺の母に対する引け目から言えなかった。

決して身代わりにするつもりはなかったらしい。
ただ不幸な出来事が重なっただけだと。

ラシードのことも次期王として考えていたんだ。
だからお前にも王になる権利はある。

それが俺達父の遺志なんだ」


「し、しかし……」


 ラシードは言葉を濁らせ、目を泳がせた。


「お前が王になって反対する者がいると思うか? 

お前は結社の司令官として皆に慕われ、その能力を発揮してきた。

お前の理想とする差別をなくす世界にするためにも、王として魔界を統治しなくてはいけないんだ!」


 ヴラドの説得に、皆がうんうんと力強く頷いた。


 瞳が爛々と輝き、新しい王の誕生を心待ちにしている様子だった。


「ですが、兄上を差し置いて……」


「頑固な奴だな。俺は人間になったんだよ。魔界の王にはなれない」


「人間になったといっても、私が兄上と血の儀式を行えばヴァンパイアになれます!」


 その言葉に、ラシードを王にしたいと思っていた結社の者達も、確かにそうだとヴラドの方を見た。
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