魅惑のヴァンパイア
あの時だけは、自分が一人ぼっちだって忘れられたのに。


優しく、指で髪をすいてくれたことも、痛みで溢れた涙の雫を、そっと唇で舐めてくれたことも。


全部、意味なんてないんだよね。


自分のしたいことだけして、帰って行っちゃったんだ、あの人は。


そう思うと、切ない気持ちにかられて、目に涙が浮かんできた。寝室の風景が歪む。


「ひどい…よ……」


私はなぜか、無理やり処女を奪われたことより、一晩一緒に寝てくれなかったことに怒りを感じた。


もし、隣でスヤスヤ可愛い寝顔を見せながら、恋人同士のように腕枕をしていてくれたなら、それだけで許せてしまう気がしたのに。


身体がだるい。


白いワンピースに着替え、ボーっと天井を見つめていた。


何かが、変わってしまった気がする。
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