魅惑のヴァンパイア
もう、嘘かもしれないとは思わなかった。


バドが嘘をつくとは思えない。


数週間経って、ようやく私は現実を受け入れた。


辛い現実を受け入れるには、時間が必要だった。


そして今が、その時だった。


バドは黙って部屋を出て行った。


気を使ってくれたのだとすぐに分かった。


バドは、優しいから。


バドの優しさに甘えて、久しぶりに泣いた。


声を押し殺して泣いた。


声を出して泣いてもいいように、バドは出て行ってくれたのだろうけれど、私は我慢した。


もう子供じゃないから。


子供じゃいられないから。


強くならなきゃいけない。


一人で、生きていかなきゃいけない。


ここで、この魔界という世界で、生きていかなきゃいけない。
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