捕食者の季節
Ⅳ【旧友】
(1)"クウジ"からの電話
2010年2月2日
―西浅井警察署・刑事課―
14時11分"加藤"と名乗る男から
刑事課に北川の所在を尋ねる電話があった
『北川は外出しております』事務の女性職員がそう告げると
『じゃあ帰ってきたら、加藤から電話があった旨伝えておいてくれないか』
その
妙に居丈高な口調に戸惑いつつ
『失礼ですが、どちらの加藤様でしょうか?』
『"クウジ"の加藤と言えば分かる』
―"クウジ"とカタカナでメモを取りながら
彼女は
(クウジってなんだろう) と首をかしげた
『今の誰からや』
松下が尋ねた
『"クウジ"ってなんですかねえ』
彼女が逆に聞き返す
『空自やろ、航空自衛隊。知らんとメモ取ってたんかい』
―あっ
松下の言葉に
ようやく気付いた彼女は
恥ずかしかったのか
早口で松下に電話の内容を伝えた
―航空自衛隊?
北朝鮮の工作員が潜入する
日本海沿岸の県警では
自衛隊や公安から
所轄署に連絡や照会が頻繁にある
という話は松下も耳にする
しかし
滋賀県では
そういう事例はまずない
まして
西浅井署のような田舎の所轄署では
勤務期間がかなり長い松下さえ聞いたことがなかった。
『"クウジ"ねえ…』
書きかけた
一件書類の不揃いな文字を眺めながら
松下が呟いた。
―西浅井警察署・刑事課―
14時11分"加藤"と名乗る男から
刑事課に北川の所在を尋ねる電話があった
『北川は外出しております』事務の女性職員がそう告げると
『じゃあ帰ってきたら、加藤から電話があった旨伝えておいてくれないか』
その
妙に居丈高な口調に戸惑いつつ
『失礼ですが、どちらの加藤様でしょうか?』
『"クウジ"の加藤と言えば分かる』
―"クウジ"とカタカナでメモを取りながら
彼女は
(クウジってなんだろう) と首をかしげた
『今の誰からや』
松下が尋ねた
『"クウジ"ってなんですかねえ』
彼女が逆に聞き返す
『空自やろ、航空自衛隊。知らんとメモ取ってたんかい』
―あっ
松下の言葉に
ようやく気付いた彼女は
恥ずかしかったのか
早口で松下に電話の内容を伝えた
―航空自衛隊?
北朝鮮の工作員が潜入する
日本海沿岸の県警では
自衛隊や公安から
所轄署に連絡や照会が頻繁にある
という話は松下も耳にする
しかし
滋賀県では
そういう事例はまずない
まして
西浅井署のような田舎の所轄署では
勤務期間がかなり長い松下さえ聞いたことがなかった。
『"クウジ"ねえ…』
書きかけた
一件書類の不揃いな文字を眺めながら
松下が呟いた。