捕食者の季節
2010年1月4日 午前10時24分―西浅井警察署―

所轄の刑事課に大浦の駐在所からの報告が入った。

刑事課課長である北川達明は報告を受けるや

『いつもの水難事故だろう』
と考え、消防への通報の有無を確認した。

大浦漁港には既に数台の消防車が現着済で

本件は遭難事故の可能性が高いとのことであった。


北川は不満の多い男だった
42歳という若さで、『刑事課課長』というポストに就いた彼を
羨む声は署内に多かったが

本人はそれすら不満だった。
『松下さん、運転願います』
北川は七歳年長の松下警部補を連れて現場―大浦漁港に足を運ぶつもりだった。

松下は
『へっ?』

と飲みかけた熱い茶をこぼしそうになりながら驚いた。

(この程度の水難に刑事課の課長自らが出張るのか?)
そういう表情を見せた。


『すいません。気になることがあるのです』

年下とはいえ上級の課長にそう言われると、返す言葉もない。

松下は無言で会釈をすると、階下に駆け下りていった。
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