捕食者の季節
『松下さんは地元生まれなんですか?』

北川は現場に向かう助手席から松下に尋ねた


『はあ…実は私は福井なんですわ。』


『ほう意外です。』


『いやね、最初の転属以来どういうわけかずっと滋賀なもんで。』


『"なまり"が板についてるから、てっきりこちらの生まれかと思ってましたよ。』


口元を吊り上げる独特の笑みを松下は浮かべた。

少し照れくさかったのと
移動してきたばかりで
『得体の知れない』年下の上司との

ぎこちない会話を自覚している表情がありありと見えた。

『で、なんで課長自らが出向くんで?』

松下は
現場に居る連中…
つまり消防や、地元区長らに対する
新任刑事課長の『顔見せ』

くらいに思っていた。


だから
北川の返事は意外なモノだった。

『船体に不自然な傷があるそうです。』


北川は冬の北琵琶湖らしい
暗い空をフロントガラス越しに見上げながら

『消防がね、"一応見て欲しい"と言うもんですから。』

こともなげに答える北川をしげしげと見て

松下は

『こいつ、ただのボンボンかと思ってたが』

『くわせもんだ』
そう思った。
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