捕食者の季節
『何か"わけあり"なんですやろか?』

皺くちゃのコートのポケットに
白手袋が入っているのを確認しながら松下が尋ねると

『例の連続死体損壊事案のようです』


相変わらず丁寧な言葉遣いと裏腹な北川の座った目を見て、背筋が伸びた

『バラバラ?』

『いえ先に現着した駐在によれば、手首だけらしいです』

―手首だけ?
海津に向かう坂本の運転する助手席で
松下は考えていた

―手首だけっちゅうことは…まずないやろ

『そういえば松さん』
松下警部補の思案を遮るように坂本刑事が話しかけた

『手首だけのガイシャ、M号照会(身元照会)済らしいですよ』


『はあ?』
―そんなこと有り得ない
そういう松下の声だった

『ですよねえ』

坂本刑事自身、松下と同じ思いだった

―死体もないのに何で身元が分かるんだ?


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