捕食者の季節
ただの水難事故じゃない
つまり

例えば船体に衝突痕でもあるなら
立派な『刑事事件』だ


着任早々に課長自ら手掛けるつもりか

松下はそう感じた


しかし
一瞬険しくなった松下の表情を見てとった北川は

カラカラと邪心のない表情で笑いながら否定した。


『松下さん、そうじゃないんですよ。』

『はあ?』

『恐らく事件の類じゃないみたいです。衝突痕が船体に無いことは電話で確認しています。ただ…』

『ただ?』

『不自然な傷が船体にあるそうで、一応"見て欲しい"』
と依頼されたのだと北川は語った。


『課長…私は何も…』
慌てて松下が取り繕うとしたが
北川が遮った

『他意がないのはお互い様です。階級は確かに私が上級ですが、気にせず何でもお願いします。』


『はあ』
確かにこの年下の課長の目には嘘の光はなかった。

案外くみしやすいのかもな

そう
松下警部補が考え始めた頃

二人を乗せたシルバーのクラウンが漁港に着いた。
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