捕食者の季節
『死後硬直してからヤッ(切断し)たら、切り口の奥には固形化した血液が残る―』

そういう意味のことを
渡辺検視官はとうとうと語る

松下は
その一言一句をメモに書き込んだ
松下警部補の表情は明らかに歪んでいた
それは先程の腐臭に耐えていた時とは明らかに異なる


『―ほ(そ)れがな、コイツには血液が残ってないんや』

『はあ』
乱雑な文字をメモに走らせながら松下が唸った


『死後ほんまに直後か、生きたままやないと、こうはならん。まあワシの見たとこ―』

―後者
つまり生きたまま鋭利な刃物で切断

ただし
切り口の不揃いなこと

骨の断面の特徴

それを勘案すると
―切断しつつ"もぎとった"と見るべき

ただし
損壊器具の特定は現時点では
困難もしくは 不可能



刑事部屋に戻った松下警部補は自分のメモに目を落しながら

すっかり冷めたままの埃の浮いた茶碗に口をつけた

『わけわからんわ』
誰にも聞こえない独り言を呟きながら
北川にどう報告しようか考える
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