弓狩り-ユミガリ-
『浮かび上がる謎』
遠い背中
―10年前、樋山家―
『兄様、雅(みやび)兄様!!』
樋山邸の長い廊下を袴姿のままで走り抜けると、目の前に見えた背中に声をかける。
『蓮…何の用だ……』
兄様が反応してくれた事に嬉しさを感じる一方で、振り向いた冷たい視線に心臓を貫かれるような感覚が私を襲った。
『ぁ…あの、今日昇級の知らせが届いて…それで、雅兄様にお知せしたくて…』
緊張と若干の恐怖から僅かに手が震え、私は袴(はかま)を握り締めながら言葉を放った。
『何段だ…?』
兄様が目を細めながら口を開く。私を見る時の、いつもと変わらない冷たい瞳―
『ぇ…、あの……1級、です…』
ボソッと口から言葉を吐き出すと、同時に上から降る嘲りの視線。
『樋山の血を引く者ならそれくらい取れて当然だ。俺がお前の年だった時にはもう昇段していたぞ。それを態々1級如きで…落ちこぼれの分際で俺につまらない時間を取らせるな』
威圧感と共に吐き出された言葉で凍りつき、私は俯いたまま顔を上げることが出来なくなった。
『も…申し訳ありません…』
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