無愛な恋人
衝撃=ハジマリ
冬のよく晴れた平日。
午後1時。
わたしは人が蛇のように並ぶ列の真ん中にいる。
手には、昨日発売されたばかりの漫画。
まだ読んでもいない新品。
「ふんふふ〜っ♪」
まわりは人の声ばかりで、わたしの鼻歌は誰にも聞こえてないと思う。
さっきから、わたしの胸は躍り続けている。
……だって、今日はあの有名な漫画家、翔一(ショウイチ)先生のサイン会なんだから!
翔一先生は少年漫画を描いている先生で、漫画の著者コメントが素晴らしいことで有名。
優しさとかっこよさが染み出しているのは、読んでみればわかる。
以前にサイン会に行ったことのある人は、『顔もカッコイイ』とのこと。
だから浮かれてるわけです。
「はい、では只今より翔一先生のサイン会を開始いたします!」
サイン会の係員の張り上げた声と同時に、わたしの心臓はどきんっと跳ねた。
会える……。
あの翔一先生に、会えるんだ!!
漫画を握りしめる手は、汗で湿ってきている。
緊張がやばいっ。
「「きゃああっ!」」
突然、まわりの男女が叫びだす。
もしかして翔一先生来たの?!