無愛な恋人
興奮しすぎたわたしは、ふらついて立っていたのぼりにぶつかったようだ。


鉄のような音がしたのに…。

わたしの体には、痛みはない。


ってか、重い?





「え!翔一先生?!」

わたしが背後に目を向けると、翔一先生がわたしに覆いかぶさっている。


翔一先生は、顔をしかめて苦痛に耐えているようだ。




「…ケガはない?」

「わたしは平気です!けど、先生が……」

「右腕だけだから、大丈夫だよ」



右腕って……。

漫画家にしたら、大事な腕じゃんか!


こんな時まで笑顔な先生。

本当に優しいんだろうけど、今はその優しさが痛いよ……。





「大丈夫ですか!翔一先生!!」

そう言って跳んできたのは多分編集長。



その声にさっきまで状況が掴めなかった会場が、騒がしくなってしまった。

みんな、大事になったとわかったんだ…。





「ひとまず救急車!あと、会場の人帰して!」

「はいっ」


会場中の係員が、バタバタと走り出した。

ケータイで話してる人もいれば、会場を静めようとしてる人。




……どうやら、サイン会は中止となったみたい。

当たり前か。
だって、翔一先生は右腕使えないんだもん。
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