兎
「………これ…は」
震えが止まらない。
言わなきゃ、ごめんねってさよならって
「架鶴帆?」
吟珥が呼んでる
下を向いていると吟珥が目の前に屈んだ。
「何があった?」
いつもと同じ優しい声。
心配してる声。
「……大丈夫」
できるかぎりの笑顔を作る。
着物を掴む手はまだ震えていたからそっと離した。
「大丈夫じゃないだろう?」
離した手を吟珥に掴まれた。
そんな顔しないで
お願いだから
吟珥にばれないように静かに深呼吸する。
「なんでもないの!大丈夫だよ」
「でも!!「吟珥!!」」
吟珥は何か言いたそうな顔をしていたが言わせないように名前を呼んで遮る。
掴まれていた手をそっと外した。
「あたしね、里を出るの」
「え……?」
なるべく明るく、気付かれないように
「だからね?もぉ此処に来れなくなっちゃうの」
泣いちゃだめ
泣いちゃだめ
「ごめんね」
里のためだから
「ありがとう」
里からの灯りがだんだんと近づいてくる。
「聞いて?吟珥」
「あたしね…たぶん………」