兎
里の広場。
中央にはいつの間にか祭壇が建てられていた。
「架鶴帆?」
里長の娘の楓(カエデ)がよれた着物と髪を綺麗に直してくれている。
「ん?」
楓とは小さい頃の友達。
昔はよくあの桜の樹の下で遊んだ。
「…………今なら里のみんなは広場に集まってて誰もいない……架鶴帆1人が里のために犠牲になんてならなくていいんだよ?」
髪をすく楓の手が震えているのがわかる。
楓は優しい。
「……ねぇ楓?」
前を向いたまま楓に微笑いかける。
私の精一杯の強がり。
「私ね……里の皆が好きなんだ、その中でも楓が大好き」
「ありがと」と楓が呟く。
「この里は皆の居場所だから」
………ねぇ吟珥、ここはあなたの居場所だから。
祭壇に炎があがる。